食品業界最前線

ニオイもコストもCO2も削減 生ごみを消滅させる業務用生ごみ処理機「POITO」

環境汚染問題やSDGsなど、自然環境への意識が高まっている昨今だが、その課題のひとつにごみ問題がある。なかでも私たち日本人が出す「食品廃棄物(生ごみ)」は年間推計で約2,531万トン(平成30年度)。うち約70%が食品産業など事業系から、約30%が家庭からの排出だと推計されている。事業者のなかには、自社で処理機を設置し、堆肥化するところもある一方、燃えるごみなどとして生ごみは袋に入れ、ごみ処理業者に委託することが多いだろう。そんななか、生ごみそのものを消滅させてしまう処理機が話題となっている。シーエヌシー株式会社(本社東京都)が開発した業務用生ごみ処理機「POITO(ポイト)」だ。

 

熱を使わず、微生物の力だけで生ごみを分解する

バイオ製剤とBC材を混ぜ合わせて準備する

生ごみが消滅する機械とは一体どういうことなのか。まずは「POITO」の仕組みから説明しよう。処理機のなかに生ごみ(肉や魚、野菜、ごはんなど)を入れると散水しながら攪拌が始まり、微生物の力で分解が進む。処理が終わったあとに残るのは、下水道にそのまま流すことのできる水溶液のみ。この「微生物」を利用している点が「POITO」の最大の特徴になる。バチルス菌という納豆菌の一種で、植物や土壌など自然界に広く分布する非病原性の細菌だ。生ごみを水溶液に分解できる菌の組み合わせを発見し、この微生物の力だけで生ごみを「消滅」させてしまうというわけだ。

生ごみを入れて攪拌・散水・分解する

従来の堆肥型処理機では腐敗臭が気になったり、処理したあとの堆肥の行き場に困ったりといった問題が発生するケースが多い。一方で、「POITO」は微生物の力で水溶液に分解してくれるので、気になるニオイがほとんど発生しない。また処理スピードが速く、概ね5~24時間で生ごみは消滅する。騒音も少なく、家庭用洗濯機程度の音だという。気になるCO2排出量についても、処理工程に熱を使わないので、焼却処理した場合と比べると約97%もの削減が可能となる試算だ。

「POITO」は今のところ業務用のみの販売で、一日の処理量に応じて8機種展開している(50kg~500kg/一日処理量)。処理機を導入するには、本体費用や資材費などの初期費用、毎月のランニングコストも必要となるが、ごみ処理にかかる外部委託費用は不要となる。「POITO」導入後10年間は約50%の費用削減、10年間の償却後はランニングコストのみとなり約80%の費用削減になると同社は試算している。

地道な研究を繰り返したまたま発見した産物

2003年創業のシーエヌシー株式会社は、もとは堆肥型の業務用ごみ処理機の製造メーカーとしてスタートした。2000年にいわゆる食品リサイクル法が制定され、ごみに対する意識が社会全体として変わり始めていた頃だった。一方で当時、導入されつつあった生ごみ処理機は海外製が多く、壊れても修理に出すことができなかったり、使用中のトラブルも多かったという。そこで同社は国産の堆肥型生ごみ処理機の製造に着手した。

しかし、堆肥型処理機には鼻をつくニオイの問題が付いて回った。また、堆肥にしたとしてもその質にはばらつきが出てしまうため、堆肥としての販売は現実的には難しく、その結果、ごみとして捨てるしかないという矛盾が生まれていた。

そこで、2011年に就任した現社長の井上茂樹氏は、堆肥型から消滅型生ごみ処理機の製造に目を付けた。とはいえ、ゼロからのスタート。東京芝浦工業大学に共同開発を依頼し、生ごみを分解する微生物の配合に約2年を費やした。その発見は「本当にたまたま。地道に研究を続けた結果の偶然だったようです」と、大阪支店支店長・志村勲氏は話す。そこから約10カ月の検証を経て2014年に「POITO」は誕生した。このとき発見した微生物は、特許生物寄託センターに寄託されている。

生ごみが消滅するという夢のような処理機が誕生したものの、普及には時間がかかった。「POITO」を導入するメリットは理解できるという声は多いものの、燃えるごみのなかから生ごみを仕分けるというオペレーションに難色を示す事業者が多かったという。「生ごみ処理機を設置していない場合、生ごみは袋に入れて燃えるごみとして出せば、業者が持って行ってくれます。その方が楽ですからね。環境汚染とかCO2の削減とか、そういったことの大切さも分かるけど、毎日大量に出るごみの仕分けは面倒くさいと言って見向きもされなかったんです」と、志村氏は話す。

しかしここ2、3年でSDGsや環境問題に対する関心の高まりが、「POITO」への風向きも変え始めた。

「生ごみは燃やさない」が常識になる社会へ大きな可能性を秘める

営業努力も実を結び始め、「POITO」の噂を耳にして興味を持つ事業者が徐々に増えていった。今では全国のホテル、空港、コンビニ、病院、介護福祉施設など約100施設で導入されている。

例えば、2017年頃に東京の国際空港が導入をスタート。空港内には50店舗以上の飲食店があり、毎日700kg以上の生ごみが出るという。導入当初は仕分けることが面倒だという声もまだまだ多かったが、導入から4年経った今はしっかりと分別され、「POITO」が活用されているという。また、全国のスーパーマーケットなど量販店からの引き合いも後を絶たない。

ところで、「生ごみを捨てるときは、水をしっかり切ってごみに出しましょう」という注意書きを目にしたことがあるだろう。生ごみは水分量が多く、焼却時には紙やプラスチックの焼却時よりも相当温度を上げる必要があるため、その分CO2の排出量も増える。「生ごみは燃やしちゃダメなんだという認識をようやく多くの事業者の方々に理解していただけるようになってきました」と、志村氏は社会の意識の変化を感じている。

毎日約100kgの生ごみが出ているという高知県のある老舗ホテルでは、志村氏の話に衝撃を受け、「これからすぐに生ごみの分別を始めます」と、ごみ処理機の導入を決めたという。

なお、人が食べている食材は概ね分解可能だが、貝殻類や牛豚の骨、卵の殻、多量の脂などは残渣ゼロまでの分解は難しい。例えば、ホタテの殻や牛豚の太い骨などは、繰り返し処理機を使っていると1週間ほどすると分解する場合もあるというが、一度の使用で残渣ゼロになることが重要だと捉えているため、そういった意味で、貝殻類や牛豚の骨などは入れないことをおすすめしている。また卵の殻は、攪拌の段階で粉々になって処理層の下に落ちてしまうので、微生物の分解にまで至らないのだそう。「さらに研究を進め、貝殻でも短時間で分解できるような処理能力の高い微生物の開発を続けていきたい」と、志村氏は力を入れる。

今後、家庭や自治体でも導入することができれば、ごみ問題や地球温暖化の問題に対して、さらに大きなうねりを起こすことが期待される。

取材:株式会社ウエストプラン

シーエヌシー株式会社

東京都品川区戸越5-17-12 矢田ビル2F
TEL:03-6277-1083
ホームページ:http://poito.jp