食品業界最前線

アップサイクルで食品ロス削減~パウダー加工で新たな食材へ~ ASTRA FOOD PLAN(アストラ・フード・プラン)株式会社

「サスティナブルな社会の実現」をミッションに掲げるフードテックベンチャー「ASTRA  FOOD PLAN 株式会社(アストラ・フード・プラン 以下 AFP)」。同社が開発した過熱蒸煎機及びその活用方法が 注目され、数々のビジネスプランコンテストに入賞している。この技術は、キャベツの外葉やタマネギの端材といった、食べられるのに廃棄される部分を5秒から10秒という短時間で乾燥・殺菌を同時に行い、パウダーに加工し、新たな高付加価値食品として再利用できるものだ。
※「過熱蒸煎」は特許庁商標登録(登録商標第 6534112 号)

長年の基礎研究を「かくれフードロス問題」に転換

パウダー状になった野菜の端材 (イメージ)

過熱蒸煎機が誕生する20年以上前、代表取締役の加納千裕氏の父である勉氏は、鉄鋼業などで鉄板のさびをとるために使われていた技術に着目。食材に用いれば添加物を使わずに味の良さと保存性を高められると考え、過熱水蒸気オーブン(スチームオーブン)を開発した。 一方で千裕氏は、女子栄養大学卒業後、食品関連企業に勤め、商品になる前に廃棄される食材に関心を持っていた。例えば白菜の芯や玉ねぎなど、食材の品質にこだわる企業ですら、仕方がないものだと見過ごされていたものだ。この「かくれフードロス問題」を解決できないかと着目したのが、父の勉氏が研究開発してきた技術だ。

加納千裕社長

千裕氏は2020年8月にAFPを立ち上げ、勉氏の過熱水蒸気の技術の最大の弱点であったエネルギー効率を劇的に改善した「過熱蒸煎」技術を開発して製品化した。この過熱蒸煎機は、玉ねぎなどの端材を細かく切って投入すると、5秒から10秒で乾燥と殺菌がなされてパウダー状になるというもの。鮮やかで味や栄養価もほとんど損なわれず、そのまま口に入れることもできる。

普段よく見る水蒸気、つまり飽和水蒸気は100℃未満の低温で、湯気として目で見ることができ、湿った気体で食品を濡らし、蒸し料理のように時間をかけて調理する。対して過熱蒸煎機で発生させる過熱水蒸気は最大800℃の高温、目に見えない気体で食品を乾かし、短時間で乾燥・殺菌する。従来の過熱水蒸気発生方式は、湯をわかして飽和水蒸気を作り、さらに熱を加えて過熱水蒸気を作るという2段式。AFPの過熱蒸煎機は、セラミックを焼き石状態にしたところに水を噴霧し、一気に過熱水蒸気を作ることができる、サウナのロウリュのようなもの。このため、エネルギー効率の面からもコストカットができたのである。

過熱蒸煎機の特徴

過熱蒸煎機50Gタイプ( 最小モデル)

過熱蒸煎機の大きな特徴として、食品を酸化させないということがあげられる。そのため、 色、味ともに良い食品パウダーができる。同じ乾燥技術のフリーズドライと比べて、イニシャルコスト、ランニングコストともに大きく下がるため、大企業でなくても導入しやすく、連続式のためライン化する際に非常に効率がよい。乾燥時間も5~10秒と高速で、スピード乾燥、高栄養価、低コストと、その違いは明らかだ。

現在、同社が作る過熱蒸煎機は、1時間に50kg処理できるモデルから1時間に500kg 処理できるものまで5種類。最大のもので1日8時間稼働すると、最大4トンの処理が可能になる。フリーズドライで同量のものを作るとなると、1億円以上の大型機械でも24時間以上かかり、エネルギーコストも増える。フリーズドライ商品が高価にならざるを得なかったのはこういった理由からだ。

実証実験から得られる様々なデータ

過熱蒸煎後の玉ねぎパウダー

同社のラボでは、企業から持ち込まれる様々な素材で、温度や蒸気噴射量の最適値を決 める実験を行っている。大根の葉を細かく切って投入したところ、あっというまにパウダーになって、依頼者を驚かせた。玉ねぎや人参も、味や風味が濃縮される。ラボで実験した企業の担当者が異口同音に言うのは、「思っていたより早く、出来上がりの品質が良い、そしてとにかくおいしい」ということ。お金を払って捨てている食材をパウダーにして、なおかつ高付加価値の商品にできるなら、新しいビジネスを生み出せるはず。食品ロスの解決に向けて、多くの企業のニーズに応えることができると、千裕氏は考えている。

吉野家とポンパドウルのコラボレーション

ダブルオニオンブレッド

過熱蒸煎機を使った、牛丼の吉野家とベーカリーのポンパドウルのコラボ商品が2023年2月に発売になった。これはAFP主導で始まった、かくれフードロス削減のためのアップサイクルプロジェクトによるものだ。
吉野家では、牛丼用の玉ねぎをスライスする際に発生する端材が、多いときには1日700kgも廃棄されている。他の端材は飼料としてリサイクルできても、玉ねぎの成分は動物によっては中毒症状を起こすことがあり使い道がなかったからだ。これを過熱蒸煎機でパウダー化し、ポンパドウルが4種のオニオンブレッドに用いて発売に至った。 過熱蒸煎機によって作られた玉ねぎパウダーは、香り、甘み、旨み、すべてにおいて高い品質を保ったため、パン生地に練り込むだけで豊かな味わいを生み出した。

玉ねぎパウダーは、フライドオニオンの代わりにスープやサラダのトッピングにしたり、ハンバーグに練り込むなど、使い道は多様にアレンジできる。また、栄養分析で、血液サラサラ効果で知られる機能性成分の「ケルセチン」が保持されることもわかり、さらに活用範囲が広がりそうだ。

今後の展望

過熱蒸煎機は、経済番組「ワールドビジネスサテライト」でも取り上げられ、各方面から注目されている。同社は、今後、機械を設置した企業からパウダーを買い取り、必要とする企業に販売するスキームも構築していくという。機械を購入した企業だけに負担をかけたくないから、自社で販売先を見つけて新たなアップサイクルを生み出す努力を怠らない決意だ。

また、野菜だけでなく肉や魚や乾物などもパウダーにでき、常温で流通できるため、輸出も視野にいれる。食品工場などから出る端材をパウダーにして味がいいものは食品へ、お茶などの飲料残渣は味はないが栄養成分が残るので飼料に、卵の殻は新素材へと活用方法はさらに広がりそうだ。

ASTRA FOOD PLAN 株式会社
〒354-0024
埼玉県富士見市鶴瀬東 1-10-26
049-293-2654
https://www.astra-fp.com/