食品業界最前線

収穫した翌日に店頭へ、農産物の物流改革

株式会社Opex


物流コンサルティング会社が手がけた農産物の流通改革が話題になっている。収穫した翌日に新鮮な野菜が店頭に並び、生産者からのメッセージ動画がサイネージで流れる。生産者、小売店、消費者、この三者をつなぐ新しいビジネスモデルを紹介したい。

従来の物流システムを合理化する

村山修社長

百貨店系列だった某スーパーがM&Aによって某系列になったのは2013年のこと。その後も赤字は解消されず、株式会社Opexの村山修社長が同社から相談を受けた。3年分のデータを見ると、物流コストを見直すだけでは到底改善できないレベル。根本的にお客様を増やすことを考えなければならなかった。

東京で流行っている店をベンチマークして調べると、野菜の鮮度が良く、SKUも多い。そこで大田市場のプロに頼んでチームを作り、自分たちも一緒に野菜の勉強をしながら改善策を考えた。「消費者は鮮度が良いものを求めています。そのためには畑から消費者までのサプライチェーンを短くしなくてはいけなかった」と村山社長。そこに物流コンサルタントとしてのノウハウが生きてくる。ITを活用して、どういうルートで品物を回せば省力化できるかを計算して実行、検証し、収穫した翌日に店頭に並ぶシステムを構築する。それまでの卸売市場ルートより2日ほど早い計算だ。

※SKU/ストックキーピングユニット(Stock keeping Unit)。在庫管理上の最小の品目数を数える単位商品

夜間に野菜を加工してスピードアップ


「鮮度が上がれば消費者が喜び、小売店の売上も上がる。生産者も良い状態で消費者の手に渡るから嬉しいわけです」と村山社長は、買参権(せりに出る権利)も購入し、さらに深く野菜の流通に取り組んでいく。

畑から届いた野菜を、小規模店向けに小分けにしたり、カット野菜に加工したりする加工場を東京に作ったのだ。その日に収穫したものが夕方届き、夜の間にカットや袋詰めをして、翌日に店頭に並べる。流通経路が短縮されて鮮度がぐんと上がった。これが「某グループの物流改革」と呼ばれて、メディアに大きく取り上げられる。今もコロナ禍で仕事がなくなった留学生らが交代で勤務し、加工場は昼夜稼働している。

共同物流でコストダウン


「今、契約生産者を増やすために各地の農業法人を回っています。共同物流をやりませんかと声をかけていくのです」と村山社長。農家が野菜を発送する際に、輸送コストが高すぎるという悩みがある。仮にダンボール1箱分の野菜が3000円、クール便が2000円かかると商売にならない。そこで、3軒の農家が一緒に大きなダンボールに野菜をまとめて1万円分にする。その数が増えれば交渉次第で輸送費が1000円になるかもしれない。これが物流の合理化なのだ。

農業法人にして大規模化し、JAとの取引をやめて自分でルートを開拓している農家もいるが、大きく広げるのはなかなか難しい。農業はこれまで正確な原価計算をせずにいた上、売価は相場次第で不安定。他のビジネス同様、適正利益を出して安定経営をしたいと考える若い農家が増えてきたことも追い風になって、契約農家は増えている。

チカラのある農家を紹介する職人シリーズ動画

やる気のある農家との出会いによって、村山社長はまた新しいことを打ち出す。「農家は自分の野菜の魅力をいくらでも語れるのに、消費者に伝える手段を持っていません。だったら我々がやろう」と、1軒1軒の農家のPR動画を制作したのだ。商品にQRコードを付けてYOUTUBEにリンクできるようにし、売り場のサイネージでも動画を流して、評判になる。


「実はこの動画、コロナ禍で時間ができた映画監督に撮ってもらえたんです」と、クオリティの高さの理由を明かした村山社長。「職人シリーズは100人まで増やしたい。すごい農家を集めて、売り場に月ごとに変わる職人の棚を作りたいし、料理人と組んでメニュー提案もしたい」と次の目標も見据えている。

「我々は相手に合わせて物流のしくみを作っていきます。大型店と小さい店のしくみは違います。『食の未来構想ラボ』がご縁で取引が始まった『まいばすけっと』は、小規模ですが、都心部でものすごく売上を伸ばしています。求められているのは少量パックやカット野菜、ほしいものだけ買える小さな店が重宝されています。さらに日本全国で生産者の共同物流を展開したい。山奥の1軒だとしても、運送会社に協力してもらうなど、規模に合わせて物流はアレンジできます。流通部分で生産性が上がれば、間接的に関わっている我々も工夫した甲斐があるというもの。今4年目、まだまだ野菜でやることはたくさんあります」と村山社長の夢は広がる。

株式会社Opex

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