コラム

次世代に伝えたいご当地食vol.1

近所にあると便利な、スーパーマーケット。コロナ禍では、非常事態の中で、私たちの日常を支えてくれる心強いライフラインであることを再認識した人も多いことでしょう。
ただし、スーパーは単に食材を買うための場所にしないでください。各地のスーパーには、地元で長く愛されてきた商品があり、地域の歴史や文化などを知るきっかけも与えてくれるのです。

まさにスーパーマーケットは「食文化の図書館」。
次世代に伝えたいエピソードにあふれています。

謎キャラ「あの子」の笑顔の真実に涙
会津の雪のような絶品ヨーグルト

<福島県>
●「会津の雪 ソフトクリーミィヨーグルト」 (プレーン)(いちご)
各138円(税込参考価格)
●「べこの乳発 会津の雪」(加糖)(無糖)
各192円(税込参考価格)
会津中央乳業


学校給食のお陰で、全国津々浦々に地元乳業が存在します。そのため、各地のスーパーで比較的容易に見つけることができるのが、地元の人々に愛飲されている「ご当地牛乳」。
冷涼な気候と清らかな水、そして広い土地。牛がストレスなく美味しい牛乳を作り出す条件を備えた牛乳生産地である福島県に、地元で親しまれている牛乳「会津のべこの乳」があります。
「べこ」とは会津弁で「牛」のこと。会津のべこから搾乳した生乳を、85℃で15分間かけて殺菌する方法を採用した、昔ながらの牛乳の風味や甘味を感じられると評判の味わいです。


この手間暇かけて出来上がった牛乳でつくる飲むヨーグルトが、1975(昭和50)年発売の「会津の雪 ソフトクリーミィヨーグルト」 。「飲むヨーグルト」と書かれていいないのは、じつは発売当時、中身は普通のヨーグルトだったからなのです。つまり飲むヨーグルトではない商品を、よく振ることで「飲めるヨーグルト」としていたそう。そのため、パッケージに「よく振って」と親切な(?)注意書きが今も残っています。「強い肺活量がなければ飲めない」と評されながらも、味の良さでロングセラーに。現在の商品も濃度は高めですが、飲むヨーグルトとして製造されているのでご安心を。


さらにこの「会津のべこの乳」から、低温のまま水分だけを取り除いた濃縮牛乳でつくったヨーグルトが「べこの乳発 会津の雪」。だから味が濃いんです。クリームのような濃厚な味わいなのに、原料は生乳のみ(加糖は砂糖使用)。凝縮された「べこの乳」の美味しさを、無添加・無香料で生かしています。
ルックスに惹かれるファンも多い、レトロな瓶入りヨーグルト。爪が短いとなかなか開けられない、あの懐かしい牛乳瓶の紙ぶたも健在です。とても歴史ある商品に見えますが、誕生は2003(平成15)年と、やや新しめなのがとても意外。

さて、看板商品「会津のべこの乳」をはじめ、それを原料にした「会津の雪 ソフトクリーミィヨーグルト」 や「べこの乳発 会津の雪」など、会津中央乳業の商品の多くに、お下げ髪でにっこり笑う女の子キャラのイラストがついていることにお気づきになったでしょうか? 同社のトラックや社員の名札でも女の子はニッコリしています。

今回、お伝えしたいのは、牛乳よりもこの女の子のことなんです。

笑顔の「女の子」、じつは名前はありません。でも「あの子」と呼ばれて愛されてきた、同社のトレードマークのような存在です。
「あの子」のモデルは同社の創始者・二瓶四郎氏の長女、孝子ちゃん。戦前、一家は満州に渡り、可愛い2歳の孝子ちゃんは父母と幸せに暮らしていました。しかし、1945(昭和20)年に終戦を迎えると運命が一変します。父の四郎氏はシベリアに抑留され、孝子ちゃんは妊娠中の母の文子さんと二人で引き揚げ船を目指し、中国各地を逃げ回る過酷な日々を送ったのです。でも、孝子ちゃんは日本に帰ることなく、栄養失調のために2歳でその短い生涯を閉じました。

命からがら会津に戻った文子さんは、悲しみにくれながらもハルピンで男の子を出産していました。現社長・二瓶孝也氏となる赤ちゃんです。
3年後、シベリアから生還した四郎氏がはじめたのは牛乳販売業。毎日搾りたての牛乳を分けてもらい、鍋で沸かして瓶に詰め販売するものでしたが、徐々に事業は拡大していきました。
1968(昭和43)年、「あの時、子どもに牛乳を飲ませることができたなら……」との思いから、女の子の笑顔を会社のマークとし、「どんな子も健康で幸せに育ってほしい」という願いを込めたのです。

癒し系キャラの「女の子」の絵は、当時の看板屋さんの手による作だそうです。そんな「あの子」の笑顔は、その後も多くの人々を元気づけることになります。
生産停止、販売自粛、さらには風評被害と予想もしない試練となった東日本大震災。あの時も、酪農家、地元の人々、社員みんな、「あの子」に励まされて今日があります。今も私たちは難しい時代にいますが、改めて平和と牛乳のありがたさ、噛み締めてみませんか。そうしたら、みんな、あの子みたいににっこり笑顔になっているはずです。

(販売店)
福島県会津地方の主要スーパーと県内一部スーパー、オンラインショップで購入可能。
http://www.aizu.ne.jp/aizubeko/mart/